契約書のマナーQ&A

社会人にビジネスマナーが求められるように、契約書作成にもやはりマナーが求められます。
契約書作成のマナーを押さえておかないと、契約書に記載された言葉(文言)の解釈をめぐって争いが生じたり、トラブルが生じた際にその契約書は偽造されたものではないのかと疑われる可能性があります。
最悪の場合、裁判になった時に契約成立の証拠として認められない可能性もあります。
そのようなことになっては、わざわざ契約書を作成した意味がありません。
以下のQ&Aを通して、ぜひこの機会に基本的なマナーを押さえておきましょう。
契約書の作成・チェックは日常的に発生する業務ですので、法人のお客様には顧問契約の締結をおすすめしております。
Q 契約書のタイトルの付け方には決まりがありますか?
A 「〜契約書」「覚書」「合意書」など様々なタイトルがありますが、タイトルの付け方には特に決まりはありません。
タイトルが「覚書」となっていると契約書よりも効力が劣ると誤解される方が時々いらっしゃいますが、その効力は同一ですので、タイトルが「覚書」「合意書」の場合でもしっかりとその内容を確認してからサインするようにしましょう。
また、裁判で「当事者間の契約はどのような契約であるか」が争点になった場合、例えば契約書のタイトルに「売買契約書」と記載されていても、契約書本文の内容が請負契約の内容になっていれば、その契約は「請負契約」であると認定されますので、契約書のタイトルよりも契約書本文の方が重要であると言えます。
Q 弊社は「基本契約」「個別契約」方式の契約をよく締結しますが、注意点は何でしょうか?
A 1つ目は、「基本契約」と「個別契約」の関係及び両者に矛盾が生じた場合の効力関係について必ず記載することです。
例えば、基本契約書において、「本契約に定める事項中、個別売買(以下「個別契約」という。)に関するものは、本契約の有効期間中、甲乙間に締結される一切の個別契約につき、その内容として共通に適用されるものとする。ただし、個別契約の内容と本契約の内容とが異なる場合は、当該個別契約が優先する。」という条項が設けられます。
個別契約において基本契約と異なる内容や条件が定められた場合、特に明確な取り決めがなくとも原則として基本契約の後に成立した個別契約が優先して適用されますが、トラブルの際に「基本契約」か「個別契約」かどちらが優先的に適用されるかについて争いが生じないように、必ず契約書の中にこの点を規定しておきましょう。
2つ目は、個別契約において、個別具体的な事情の十分な検討を忘れないことです。
基本契約を締結していることで「すでに契約は済ませた」との意識が働いているためか、本来個別具体的な検討をすべき個別契約において、数量と価格だけを決めて検討を終わらせている場合がよくあります。これでは、せっかく契約書を作成したのにトラブルの解決に役立ちません。
基本契約書を作成したことで安心せず、個別契約の検討も怠らないようにしましょう。
Q 条文の見出しは付けた方がよいでしょうか?
A 契約書の条文には、第1条(目的)、第2条(製品)などのように見出しを付けるのが一般的ですので、見出しは付けた方がよいです。
見出しを付けるにあたって注意することは、当たり前ではありますが、見出しと条文の内容を一致させることです。見出しは便宜上のもので法的拘束力はありませんので、見出しと条文本文の内容が一致しない場合は本文のみが効力を有することになります。
見出しと条文内容の不一致の場合には条文の解釈をめぐって争いが生じる可能性もありますので、適切な見出しを付けるようにしましょう。
Q 契約内容については「1月1日」に合意が成立したが、契約書を作成しておらず、「2月1日」になって契約書を作成する場合、契約書の日付は「1月1日」と「2月1日」のどちらになるのでしょうか?
A 一般的には契約書作成日を日付として記載しますので、上記の例では契約書の日付は「2月1日」と記載するのが原則です。
もっとも、上記の例のように契約成立後しばらく経過してから契約書を作成することもよくありますから、契約書の日付を「1月1日」とすることも可能です。この方法は、「バック・デイト(back-date)」と呼ばれています。
この際に注意すべきことは、①相手方に「当初の契約内容と異なる内容の契約書にサインさせられた」と言われないように契約書をよく確認してもらうこと、②法規制等に違反したり、第三者の権利・義務を侵害しないようにすることです。
以上からすると、リスクを最小限に抑える方法は、契約書の日付は「2月1日」としたうえで、「効力発生日」を「1月1日」としたり、「有効期間」を「1月1日〜」と記載する方法になります。
Q 契約書の「甲」「乙」の決め方はありますか?
A 通常、契約書を作成する際には、当事者の一方を「甲」、もう一方を「乙」と置き換えます。その時に、どちらを甲にするか、どちらを乙にするか悩むことがあると思います。
一般的には、力関係の強い者が「甲」となり、弱い者が「乙」となることが多いのですが、相手方を立てるために自社を「乙」とすることもあります。
契約上の力関係は契約書の記載内容により定まるので、甲乙どちらが有利というようなことはありません。
なお、ごくまれに「甲」と「乙」がズレている契約書がありますが、トラブルのもとになりますので、細かいところまでしっかりチェックしましょう。
Q 会社の代表取締役が変更になったのですが、契約書を作成し直す必要はありますか?
A 代表取締役の変更は契約書の効力に影響を与えませんので、契約書を作成し直す必要はありません。
もっとも、代表取締役の変更の場合、通常は契約の相手方に代表取締役の変更について連絡をします。
また、契約書に、「会社の社名変更、代表者変更等の場合、すみやかに相手方に通知すること」との定めがある場合には、契約上の通知義務を負いますので、注意しましょう。
Q 会社名が変更になったのですが、契約書を作成し直す必要がありますか?
A 社名変更は契約書の効力に影響を与えませんので、契約書を作成し直す必要はありません。
もっとも、社名変更の場合、通常は契約の相手方に社名変更について連絡をします。
また、契約書に、「会社の社名変更、代表者変更等の場合、すみやかに相手方に通知すること」との定めがある場合には、契約上の通知義務を負いますので、注意しましょう。
Q 組織再編(合併、会社分割、事業譲渡など)の場合、契約書を作成し直す必要がありますか?
A 合併や会社分割においては、契約関係は存続会社や吸収分割承継会社に包括的に承継されるのが原則ですので、契約書を作成し直す必要はありません。
もっとも、契約書の中に、いわゆる「チェンジ・オブ・コントロール条項」(支配権移動条項)が含まれている場合には注意が必要です。
チェンジ・オブ・コントロール条項とは、「甲に、その主要株主の異動や経営陣の交替、合併・会社分割・営業譲渡などの組織再編、その他会社の支配に重要な変更があった場合、乙は本契約を解除する権利を有する」といったように、経営支配権に大幅な変更があった場合に相手方に解除権を認める条項です。
これにより契約が解除される可能性がありますので、実務上は、相手方に解除権を行使するか否か確認します。
事業譲渡の場合には、合併や会社分割と異なり、契約関係は包括的に承継されませんので、個別の契約ごとに相手方の承諾を取る必要があります。
もっとも、契約書を作成し直す必要はありません。
Q 契約書への捺印(押印)は認印でもよいですか?
A 「実印」とは印鑑登録がなされている印鑑のことで、「認印」とはいわゆる三文判のことです。
捺印は、実印でなければならない、という決まりはありません。
しかし、認印でもよいとなると、文房具店などですぐに認印を手に入れることができるため、契約を締結する権限のない者により契約書が作成されるリスク、つまり、偽造のリスクが高まります。
したがって、一般的には、契約書への捺印には実印が用いられます。
特に重要な契約書を作成する場合には、実印で捺印したうえで、契約当事者の印鑑証明書を契約書に添付すると良いでしょう。
Q 契約が終了した場合、何か手続きが必要ですか。
A 「契約終了確認の合意書」などを作成する場合もありますが、通常は特に何も対処しないことが多いです。
契約期間の満了による終了の場合は契約書の記載を見ればわかりますし、解除による終了の場合は解除通知などによりわかります。
ただし、契約期間について、「本契約の有効期間は、本契約締結日から1年とする。」との記載があるにもかかわらず、契約締結日の日付が「平成 年 月 日」とブランク(空白)になっており、いつ満了するのかすぐにはわからなくなっている契約書もたまに見かけます。契約書の日付は必ず記載するようにしましょう。